泣いてもいいですか?


 女3人集まれば姦しい。
 とあるように、女の子が集まればかなりうるさくなるものである。
 本日は普段の身分を離れて、座談会。
 もちろん話のテーマは『恋話』であった。


「理想って言うか、好みのタイプね。
 私は自分より強い人かな」
 甄姫付きの護衛武将・恵ちゃん先輩はニカッと笑う。
「恵さんよりも強い人ってそうはいなさそうだけど」
 と穏やかに言ったのは、張遼付きの女官の梢だった。
「じゃあ、殿とかは?」
 司馬懿付きの護衛武将・は無邪気に尋ねた。
「ああー、殿はダメ。
 あの人、細くない?
 女顔だし。
 そういう意味では、張コウ様もダメだし、司馬懿様もダメだし、夏侯惇様もダメだね。
 こう筋骨隆々なのが良いんだよね」
 手振りで筋肉ダルマを恵は表現する。
「夏侯惇様も?」
 驚いたように言ったのは司馬懿付きの女官の
「あの人、ひげに騙されるけど、けっこう女顔だよ。
 夏侯淵様とかはちょー好みかな。
 お手つきじゃなかったら、狙ってたかも」
 恵はニコニコと笑った。
「夏侯淵様は、良い人ですよね~」
 はニコッと笑う。
 何と言っても弓のお師匠様なのだ。
「あいかわらず変わった趣味ね」
 曹丕付きの護衛武将・魚がクスクスと笑った。
「魚さんはどんな方が?」
 おっとりと梢は尋ねる。
「私よりも背が高い人ね。
 私がヒール履いて、10㎝は高くないとね」
 魚は言った。
「あー、それもう無理じゃん。
 魚の身長でそれは高望みだろう」
 恵は言った。
「理想の話をしているんでしょう。
 ある程度の人なら妥協するわ」
 魚はつんと拗ねる。
「それでさんは?」
 梢は話を振った。
「あ、私ですか?
 そりゃあ、決まってます。
 お金持ち♪」
 は元気良く言った。
「え」
「あらあら」
「まあ」
らしいよなぁ」
 少女よりも年上の女性はそれぞれの感想を漏らした。
 ちなみに、、魚、梢、恵の順である。
「変なこと言いました?」
 はコトンと小首をかしげる。
「本当にそれだけで良いの?
 お金持ちでも、お年を召した方とか、好色な方とか、見るからに悪役そうな方とか、いると思うのだけど」
 のんびりと梢は尋ねた。
「はい!
 どんな外見でも、どんな内面でもかまいません」
 は言い切った。
「お金が好きなのね」
 は感心したように、大きく息を吐き出した。
「理想なんだから、他にはないの?」
 魚が訊いた。
「えーっと、私のことを大切にしてくれる人……かな?
 正確には、私の家族を。
 私が死んじゃっても、弟と妹の面倒を見てくれて。
 金払いに汚くない人が良いです」
は家族思いだなあ」
 呆れたように恵は言った。
「だったら打ってつけが一人いるじゃない」
 面白そうに魚は言った。


「と言うわけなんです」
 は上官に報告した。
「ところでさんって、司馬懿様の理想の相手っぽくないですか?
 見るからに従順そうで、中身も従順ですよ、たぶん」
「人は見かけによらない」
 司馬懿は竹簡を読みながら答えた。
「そうですか?
 司馬懿様の理想が良くわかりません」
「理解する必要はないだろう」
「まあ、そうですね」
 はうなずく。


 司馬懿様のお嫁さんになる人って、どんな人なんだろう。
 すごーく、できのいい人なんだろうな。
 うん。
 まあ、私には関係ないけど。
 ちょっと、興味あるかも。


「それでですね。
 司馬懿様って私の理想の男性なんですね」
 はニコニコと話す。


 自分で言うのもなんだけど。
 意外ぃ~。
 理想が司馬懿様だなんて、変な感じ。
 魚ちゃん先輩が言うんだから、私の理想の相手は司馬懿様なんだろうけど。
 でも、やっぱり、変。


 気難しがり屋な軍師は、を無視して竹簡を読みふける。
 いつものことなので、少女は気にしないで話を続ける。
「でも、不幸なことに私は司馬懿様の好みとは対極にいるんです。
 せっかく、性別が違って、結婚できるのにもったいないですねー。
 でも、ある意味では幸運なんです。
 私情を挟まずに仕事ができるんですから。
 こういうのって滅多にないと思うんですよ~」
 はニコニコと話す。


 もうこうなると、司馬懿様って相づちも打たなくなるんだよね。
 でもちゃんと話は聞いてるから、最後まで話さないと怒るしぃ。
 とりあえず、思ってること全部しゃべっちゃえ。


「やっぱり、護衛するべき相手と恋愛関係になるのってマズイですよね。
 小説とかではよくある展開ですけど。
 ほら、戦場がはぐくむ愛ってヤツです。
 そういうのって、お話の中だから良いんですよね~。
 現実で起きたら大迷惑ですよ。
 作戦のために、護衛武将を見捨てるような局面が来たら、どうするんでしょうね。
 判断が鈍ったら、大災害です。
 だから、私は司馬懿様のことをちゃんと守って。
 司馬懿様は作戦のために、私を切り捨てることができて。
 私のほかにも護衛武将なんているから、すぐに代わりなんか見つかっちゃって」
 は目を瞬かせる。


 あれぇ。何だか悲しくなってきた。
 どうしてなのかなぁ……。
 当たり前の……こと……なの……に。


「私が死んだら。
 司馬懿様はたまには……思い出してくれますか……?
 忙しいから、やっぱり……忘れちゃいますか?」


 何だか、すごく泣きたい気分。


 司馬懿は顔を上げて、を見る。
「ずいぶんと器用だな。
 自分で話し出して落ち込むとはな」
 言葉は皮肉たっぷりだったのだが、何故だかとってもやさしく耳に響いた。
「想像していたよりも、ずっと司馬懿様のことが好きになっていたみたいです。
 ……泣いてもいいですか?」
 は素直に言った。
「馬鹿め。
 私が護衛武将を見捨てるような失策をすると思うてか?」
 司馬懿は不満そうに言った。
 は首を横に思い切り振った。
「だったら、来るはずもない未来に泣く必要などなかろう」
 苛立ちながら司馬懿は言った。
「はい」
 そんな未来は来ないと言い切ってもらえて嬉しかったから、は笑顔を作った。

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