何時もの夏用のドレスではちょっと暑かった。
大きな日除けの帽子が役に立っていた。
ディアーナは兄の公務に無理を言ってついてきた。
今回のちょっとした旅行が終わったらしっかり勉学に励むという条件付きで。
馬車からの風景は何時もとは違う。
港町を目指して馬車はひた走る。
渡る風が気持ち良かった。
「ディアーナ、あまり身体を乗り出すんじゃないよ。危険だからね」
「はいですわ、お兄様」
馬車の窓から顔を覗かしていたディアーナは兄の忠告に従った。
「ディアーナは楽しそうだね」
「ええ、こうしてお兄様とお出かけ出来るなんて初めて!
とても嬉しいんですわ」
「ははは、それはありがとう」
兄の腕に寄り添ってディアーナは嬉しそうだった。
「ディアーナ、見てごらん」
窓の外に青いどこまでも青い海が広がった。
初めての海にディアーナが嬉しそうな声を上げる。
太陽の光に水面がきらきらと光り輝いていた。
「素晴らしいですわ」
クラインの王宮と町の中、そして離宮しか歩いたことのないディアーナにとって海は珍しいものだった。
潮の香りが鼻をくすぐる。
「お兄様、ありがとうですわ」
妹の喜ぶ姿が見たかった。息抜きを兼ねた休みなら1日くらい取れるだろう。
公務でこの地にやってきたがディアーナとも一緒に過ごしたかった。
「仕事が終わったら海に行こうか」
「はい、お兄様」
「それまで侍女たちの言うことを聞いて待ってるんだよ」
「はいですわ、お兄様」
港町で兄は人に会う約束をしていた。それが終わればディアーナと共にゆっくり出来るだろう。
それまで大人しくしていて欲しいとセイリオスは思う。
***
窓辺に肘をついていた。打ち寄せる波を見つめていたがそろそろ飽きてきた。
うずうずと好奇心が沸いてくる。
町に行きたい。ディアーナは侍女が傍にいないことを確認した。
そおっと部屋を出ようとしたが突然、ノックの音が聞こえた。
慌ててディアーナはドアから離れる。
ノックをして入って来たのはセイリオスだった。
兄の仕事が終わったのだ。
「入るよ。ディアーナ」
「は、はい、ですわ」
ちょっとばつが悪そうにディアーナは微笑んだ。
「何かあったのかい?」
「いいえ、お兄様」
「そうかい? 出かける準備は終わっているかい? 日差しが強いので遮光を忘れずにね」
つばの広いお気に入りの帽子に薄手のカーディガン。
夏の日差しは強く紫外線も多い。
妹を気遣ってセイリオスはいろいろと心配してくれる。
「さぁ、行こうか」
「はい、ですわ」
部屋の中は入ってくる風が気持ち良かったが外は違っていた。
ぎらぎらと輝く太陽な焼けるように暑い。
このままじゃ海につく前に干上がってしまうのではないだろうか。
ふとディアーナはそんなことを思う。
「さぁ、ついたよ。砂の上は熱いから気をつけて」
砂の上は熱かったが靴を脱いで波間に足を入れると気持ち良かった。
長いドレスをたくしあげて濡れないように気をつける。
こんなとき、メイみたいな服装だったら楽だったのにと思う。
「こんなに素敵な場所なんて生まれて初めてですわ。ありがとうございます、お兄様」
「そうかい、こんなに喜んでもらえるなんて私も嬉しいよ」
ぱしゃぱしゃと海の水に足を浸して気持ちよさそうだ。
寄せては返す波にディアーナは楽しそうだ。
その様子をセイリオスは穏やかな瞳で見つめる。
連れてきて良かった。
喜んでくれるディアーナの姿は自分にとって最高の誕生日プレゼントになったようだ。
愛する妹からプレゼントをもらえることは予測できていたが。
END