「小喬」
優しい声が少女の名を呼ぶ。
庭をながめていた小喬は振り返る。
そこには大好きな人がいた。
「お仕事はもうおしまい?」
いつもよりも早い刻限だった。
だから、不思議に思って尋ねた。
「孫策に逃げられた」
周瑜は白状した。
「お姉ちゃんのところは?」
「いなかった」
「じゃあ、城下かなぁ」
小喬はクスクスと笑う。
「だから、馬鹿らしくなった。
私も今日は仕事はおしまいだ」
「本当? 嬉しい!」
小喬は周瑜に抱きついた。
腕が優しく背中に回る。
鍛えられた腕の中に包みこまれて、心臓がドキドキした。
「君が幸せになり方を教えてくれたんだ」
小喬の耳をくすぐるように周瑜は言った。
「あたしも同じだよ。
周瑜さまがいて、たくさん幸せを知ったよ」
小喬は顔を上げる。
甘やかな瞳と出会う。
そして、ぎゅっと強く抱きしめられた。