僕が一番、欲しかったもの。
それを持っている妹が憎たらしかった。
可愛い、可愛い妹だけど。
僕が、絶対、手に入れられないものを妹は、生まれ持ってきた。
それは父上と同じ色の瞳。
曹一族の色。
どんな色にでも染まる灰色の瞳。
空を見れば、空色に。
緑を見れば、緑色に。
染まる灰色の瞳。
僕が一番、欲しかったもの。
東郷は、それを手にしている。
僕が欲しかったもの。
それで、僕を見る。
無邪気に。
「お兄さま」
って呼ぶ。
曹一族の瞳が僕を見上げる。
可愛い、可愛い僕の妹。
何も知らずに、何も気がつかずに。
それでも、僕は思うんだ。
可愛い妹だって。
僕と同じ、父上と母上の子で。
僕に似ているところを探すのは、大変だけど。
妹は『大好き』って言ってくれるから。
何度でも、態度で示してくれるから。
僕が「兄」だって、くりかえし呼んでくれるから。
やっぱり東郷は、僕の可愛い妹なんだ――。