唐突なのは、変わらない。
驚きながら喜ぶ自分を見つけ、苦笑した。
「あいかわらず、仕事ばっかりしてるのね」
暁色の瞳をきらきらと輝かせて、少女は言った。
「お久しぶりですね」
エルンストは書きかけの論文を、保存する。
いくつかのキーを手早く入力すると、モニターはブラックアウトした。
「続けていいのに」
レイチェルは手近な椅子を引いてくると、座った。
「いいえ、そういうわけにはいきませんよ。
遠方に住んでいる忙しいはずの友人が、遊びに来てくれたのですから」
「仕事なら、きちんと済ましてきたよ。
ちょー優秀な補佐官さまだからね」
得意げに少女は言った。
そうしていると、歳相応だとエルンストは思った。
「あなたには前科がありますからね。
急ぎの仕事ではありませんし」
「……あれは、まだ小さかった頃のことだよ。
いつまでも覚えてるんだから」
これだから年寄りは困っちゃうよ、とレイチェルは口を尖らせる。
「記憶力は良いほうですから、いつまでも覚えていますよ」
こうやって軽口を叩き合っていると、昔に戻ったようだった。
懐かしいと思うほどには、時は流れた。
目の前の少女には、変わりがなかったけれど。
チタンフレームの奥の瞳が和む。
「それで、くりかえし言うんでしょ。
お・じ・さ・んは!」
ふれられたくない過去の汚点だったのだろう。
少女は不機嫌に言った。
「そうですね」
過去の記憶をくりかえし思い返すのは、歳をとった証拠だ。
今よりも、未来よりも、過去を見つめている。
「……」
レイチェルは、黙った。
エルンストの反論を待っていたのかもしれない。
ふいに沈黙がやってきた。
コンピューターの立てるモーター音だけが響く。
普段なら耳に止まらないような、静かな音。
「あなたは変わりませんね」
「エルンストも変わってないみたいだけど?」
「歳をとりましたよ」
エルンストは苦笑した。
少女は困惑を浮かべる。
「あなたが失ったものの一つですね」
損をしたのは、少女のほうだ。
不老長寿は人類の夢かもしれないが、限りあるからこそできることがある。
「あなたが私のできないことをするように、私はあなたができないことをするのです。
短い一生に見えるかもしれませんが、充足感は一緒です」
「後悔はしないつもり」
レイチェルは小さく笑った。
「同感です」
「だから、同情はしないで」
「心配はさせてください」
エルンストは言った。
「あんまり違いはないと思うんだけど?」
レイチェルは眉をひそめる。
「かすかにでも違いがあれば、別物ですよ」
エルンストの言葉に、少女は弾けるように笑った。
ひとしきり笑った後、目の端にたまった涙をぬぐって、
「そうだね」
と、飛び切りの笑顔で答えた。
「それで、本日のご用件は?」
「エルンストの顔を見たかっただけ。って言ったら、怒る?」
「いいえ。
あなたらしい」
エルンストは言った。
それだけの理由で、別の宇宙までやってきた少女を叱る気にはなれなかった。
ずいぶんと甘いと思うものの、喜ぶ自分を棚上げして、怒るわけにはいかないのだ。