「精霊師は傲慢ですね」
白髪の魔導師は言った。
祖龍の城、城西。
東西をつなぐ十字路から少し離れた場所に“溜まり場”があった。
ここに集まる人物たちはさまざまだ。
構成員一人のギルド。その事実上ギルドマスターの精霊師。
低レベルの者たちが無用なトラブルに巻きこまれないように、と設立されたギルドのギルドマスターである妖精。
初心者支援を目的とするギルドのギルドメンバー。
この“溜まり場”には3つのギルドのメンバーがいた。
RK禁止だからこそ、馴れ合っていられるのだろう。
「話なら聞いたよ」
階に足を投げ出すように座っていた少年は笑顔で答えた。
微笑みではなく、歯を見せて、思いっきり笑う。
幼さが残る顔立ちに、その笑顔はよく似合っていた。
白識がパーティを組む精霊師とは段違いの、親しみを感じた。
エルフ族としては色の深い髪のせいだろうか。
頭部に生える真っ白な羽がなかったら、統風は精霊師に見えなかった。
「ハウルファング討伐、おめでとう」
統風は言った。
少年は、階の空いている側を手で指し示す。
「完遂できて嬉しく思っています」
白識は言った。
「僕の隣は嫌い?」
統風はくすくすと笑う。
「も、申し訳ございません。
そういうつもりでは……っ!」
「立ったままのほうが話しやすいなら、そのままで良いよ。
もちろん気が変わってくれるのは、いつでも大歓迎だ」
統風は微笑んだまま言う。
「凍夜殿がお気になさるのでは?」
白識は言った。
「ご期待に沿えるような関係じゃないんだよ」
「何故?」
「それこそ、何故だよ」
ニコニコ笑顔で精霊師の少年は笑う。
外見だけを問題にすれば、統風のほうが、白識よりも若く見える。
「統風殿は、凍夜殿を愛していらっしゃらないんですか?」
白識は、好奇心に負けて問うた。
「みんなそれを訊くんだよね。
どこかにマニュアルがあるのかな?」
「凍夜殿のために統風殿は、何度か生命の危機を味わったとか」
「そういうこともあるね。同じパーティのメンバーだ」
「精霊師なのに?」
「……精霊師だから」
統風は小さくためいきをつく。
「蘇生魔法を唱えるのは嫌なものだ。
その前に助けられなかったのか。
回避できたんじゃないか。
もし、あのとき……。
っていうのが蓄積していくと、だいたい自分の限界が見えてくる。
ここまでなら、大丈夫。
これぐらいなら、死なない。
そういうラインが見えてくるんだ。
だから、そのラインまでは努力したい」
精霊師の少年は微笑を浮かべた。
「傲慢ですね」
白識はくりかえした。
「矜持だよ。
白識だって矜持を持っているだろう。
魔導師としての矜持」
「それを貴殿ら精霊師は粉砕する。
私は死ぬ覚悟で、怨霊討伐に向かう。
火・水・土の三元を操り、怨霊たちに大打撃を与える。
だが、金系統の魔法しか扱えないというのに、精霊師たちは強い」
「そうだね」
統風はうなずく。
「強力な支援魔法と回復魔法を持っている。
……つまり、独りでも戦うことができるのであろう?」
「エルフ族は神と人の混血児。
流れる神の血は強大だ。
忘れちゃいけないのは、もう半分は……白識と同じだ。
人族なんだよ」
統風は小さく笑う。
緑色の瞳が優しく和む。
まるで憧れを見つめるように。
「だから、孤独を知っている。
失われていく辛さを知っている。
独りで戦える。そうだね。
でも、独りだけじゃ戦い続けられない。
心が痛むんだ。
寂しくて、苦しくなる。
パーティを組む理由は人それぞれだけれど、ね」
「私は、精霊師の永雪殿にこれ以上、守ってもらうのが嫌なんです。
戦えることを証明したいのです。
そうでなければ、私がここにいる意味がなくなってしまいます。
彼らは……そう蒼月殿と永雪殿は、二人で戦い続けられるでしょう。
私がいたからといって、彼の戦いが楽になることは……ありません」
「きっと何かしらの利点があるんだと思うよ。
それは目に見えないものかもしれないけれど」
「そうなのでしょうか」
少女はうつむく。
「パーティにおける戦いは、独りの戦いとは違うものです。
お互いに協力しあって、足りないところを補っていく」
「正論だね」
「でも、精霊一人、あるいは弓使い一人で、何とかなってしまうのなら……。
そこにどんな意味があるんでしょうか?」
「白識たちが倒したのはハウルファングだ。
これから先、もっと強大な怨霊と対峙したとき、白識がそこにいる理由がわかるよ。
永雪は回復に専念してないといけないだろうからね」
魔壁は魔導師が一番、向いている思うよ。と、統風は笑った。
「精霊師は一人で何でもやろうとする」
白識は言った。
「できることをできる範囲でしているだけだよ」
「それが傲慢だ。
パーティメンバーを頼っていない証左だ」
頼られない者は『仲間』とは呼ばれない。
「白識が修練を組んでいけば、時期にわかるよ」
統風はニコッと笑った。