不安なことがあるんだ。
心配なことがあるんだ。
それは僕が弱いから……だ。
千年戦争。
人族とエルフ族の……大きな戦い。
僕が生まれる前。
君が生まれる前。
たぶん、彩香も生まれていなかった、と思う。
ずっと前に起きて、僕らが知らずにいた戦い。
小さな村で暮らしていたら、一生、知らずにいた単語だ。
村を飛び出し、三種族連合の軍に身を置いて、一緒に戦ってきた仲間。
三人とも違う種族だった。
ずっと一緒にいたから、同じだと思っていた。
でも、凍夜さんには羽がない。
でも、彩香は大きな耳と尻尾を持っている。
外見の違いなんて忘れかけてしまうほど『仲間』だった。
それでも『千年戦争』という単語がのしかかってくる。
軍の指令の合間に受ける依頼の中で、誰もが言いづらそうに、誰もが苦々しく、誰もが口ごもりながら、それでもくりかえし零す。
千年戦争と呼ばれる戦いがあったこと。
それが終わったこと。
長く凄惨な戦いの歴史は、まだ僕たちの記憶の中にある。
長命のエルフ族は覚えている。
歴史を書き記す人族は口伝えている。
妖族は……僕は知らないけれど、きっと野生動物の勘のように気がついている。
もし、僕たちが本当のことを知ったら、僕たちは今までのように『仲間』だと笑っていられるのだろうか。
信じていられるのだろうか。
三人とも違う種族だから。
きっと、きっと。
自分の先祖がしたことを、自分の先祖が受けたことを。
知ってしまったら、忘れられない。
だから、僕は怖くなる。
心配になる。
強くなることが、新しく知っていくことが、後戻りできなくなることが。