クリスマス・プレゼント

 12月24日・夜。有川家にて。
 ドタバタと賑やかにクリスマスパーティーが終わった。
 一人っ子の望美は、兄弟がずっと欲しかったから、賑やかなのは大歓迎だった。
 しかも、一人も欠けることなく揃っているのが嬉しかった。
 もう、一人ぼっちで時空を渡らなくてすむ。
 それが、嬉しかった。
 最高に幸せなクリスマス。


「終わっちゃうとあっけないもんだね」
 望美は笑った。
「洗い物を手伝わせてすみません」
 食器棚に皿を戻しながら、譲は言った。
「いいよ、別に。
 楽しかったし。
 はい、これで最後♪」
 望美は、キレイに拭き終わった皿を譲に渡す。
「助かりました」
「料理させた上に、一人で洗い物させたら、悪いでしょ」
「慣れてます」
 譲はガラス戸を閉める。
「今度は年越しかな?」
 望美はテーブルの上に乗せておいたバックを持つ。
「送ってきます」
 緑色のエプロンを外しながら、譲は言う。
「隣だよ」
「あんなことがあったせいか、不安なんです。
 ちょっと離れている間に、先輩がどこかに行ってしまうんじゃないか、と」
「全部解決したよ。
 譲くんは心配性だね」

 外は、綺麗な晴天。
 ホワイトクリスマスに憧れるけど、ここでは無理だろう。
 もっと寒いところに行かないと。
 この空も良い。
 たくさんの時空を越えて、たくさんの雪を見て、何回も12月を繰り返した。
 ホワイトクリスマスもあった。
 でも、ここで雪のないクリスマスの方がずっと良い。
 みんながここにいるクリスマスの方が、ずっとずっと素晴らしい。

 春日家の玄関前。
「先輩、これクリスマスプレゼントです」
 譲はシックな赤の包装紙に包まれた大き目なそれを差し出した。
 リボンはエバーグリーンで、クリスマスカラーだった。
「うわぁ、ありがとう。
 本?」
 望美は受け取る。
「クリスマスの話を集めた本です。
 春日先輩、こういうの好きだと思って」
「ありがとう」
「それで、読み終わったら……。
 その、是非、……返事をください」
「返事?
 感想じゃなくて?」
「い、いえ。
 その……。
 最後まで読めばわかりますから」
 早口に譲は言った。
「うん」
 その勢いに負けて、望美はうなずいた。
「そ……それじゃあ、その。
 失礼します」
 逃げるように走り去る譲の背を見送りながら、望美は首をかしげた。


 クリスマスプレゼントの本は、面白かった。
 薄さも手伝って、すいすいと読めてしまう。
「あれ?」
 望美は最後のページに手紙が挟まっているのに気がついた。
「なんだろう」
 つぶやきながら、手紙を開く。
 宛名は『春日望美さま』
 神経質そうな細く几帳面な字は見慣れたもの。
 真っ白な封筒の中には、真っ白な便箋。
 たった一枚きりの便箋に、たった8文字。
 資源の無駄遣いって思えるような代物だったが、望美はそれどころではなくなってしまった。
 何度も8文字を読み返して、確認して。
 やっぱり、そうとしか思えなくって。
 そういう意味にしか取れなくって、恥ずかしくなって、便箋を何度も見つめてしまう。



 『あなたが好きです』



 それだけしか、なくって。
 それだけで十分で。
 望美は気恥ずかしくなってしまった。
「返事しなきゃ」
 望美はカバンから携帯電話を取り出した。
 送信履歴からEメールを送る。
 2文字だけ。



 12/25 0:12
 Sub   Re:
 Frm   望美


 『私も』


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