初恋

 その日はとても良い天気だった。
 空は青くて、白い雲がのんびりと漂っていた。
 風が気持ちよくって、鳥のさえずりがときおり聞こえてきた。
 いつもの日の曜日。
 森の湖にお誘いしたのは、こんないい天気だから、お日さまに会いにいきたかったら。
 人がたくさんいるところだと恥ずかしいから、二人っきりのところを誰かに冷やかされたくなかったから。
 本当にそれだけだった。
 でも、あの方の穏やかなブルーグレーの瞳が、本当に優しかったから。
 静かなその声が気持ちよかったから。
 それを独り占めしたいと思った。
 だから、言うつもりがなかったことを言ってしまった。


 それを今、後悔している。
 バカな自分。



「好きだったの。
 ずっと、すきだったの。
 この気持ちは嘘じゃなかったの。
 でも、ね。
 恋じゃないって、憧れだって言われちゃったの。
 お酒に酔うみたいに、恋に恋してるんだって」
 アンジェリークは鼻をすする。
 涙が止まらない。
 時計の針は逆には回せない。
「失恋しちゃった。
 諦めるしかないよね」
 すごく優しかった。
 気持ちに答えられないって。
 すまなそうに謝る姿を見たら、何も言えなくなって逃げ出した。

「貴方らしくないですわね」
 ロザリアは白いハンカチを取り出して、アンジェリークに手渡す。
 白いレースのハンカチは、涙で汚すのがもったいないくらい綺麗だった。
「諦めが悪いのが取り柄じゃなかったの。
 努力してからでも遅くないんじゃありませんの?」
 ロザリアは怒ったように言う。
「努力?」
 借りたハンカチで遠慮なく涙を拭く。
「諦めたくないなら、諦めなければよろしいんじゃなくって?
 他人の言いなりになるなんて、おかしくありません?
 私の気持ちは私だけのものですもの。
 気持ちを決めるのは、私だけですわ」
 ロザリアは胸を張って言う。

「……ロザリア」
 気持ちが温かかった。
「そうだよね。
 ありがとう!」
 アンジェリークは笑った。
 笑ったら、元気が湧いてきた。


 だから、諦めない。
 好きだって気持ちは嘘じゃないから。
 この想いはちゃんと「恋」だって思うから。


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