コーヒー

 聖獣の宇宙の鋼の守護聖は王立研究院に訪れた。
 個人的な研究のデータをもらいに来たのだった。
 珍しいことではなかったので、研究員もてきぱきとしたものだった。
「どうぞ」
 研究員が紙コップをエルンストに差し出した。
「ありがとうございます」
 礼を言い、紙コップを受け取る。
 懐かしい香りがした。
 コーヒーを一口、含む。
 酸味が強く、コクのないコーヒーだった。
 まるで泥水のような味がした。
 そのことにエルンストは、自分もずいぶんと偉くなったものだ、と思った。
 王立研究院のコーヒーを不味いと感じるとは。
 毎日のように、眠気覚ましに飲んでいたのに。
「どうかしましたか?」
 研究員が尋ねる。
 顔に出ていたのだろうか。
 今や神に等しい守護聖なのだ。
 無駄におびえさせてはいけない。
「懐かしい味だと思っていたのです」
 エルンストは事実を述べた。
 歳を重ねても、嘘をつくことは苦手だ。
 コーヒーが不味かった、とストレートに告げてはいけないことぐらいエルンストには、わかっていた。
「ありがとうございました」
 紙コップを空にして、研究員に手渡す。
 二度と王立研究員に戻れないだろう。
 変容してしまった自分に、心の底でためいきをついた。
「後で資料を転送していただけますか?
 少し気になる星があったので」
 エルンストはできるだけ穏やかに言った。
「はい、わかりました!」
 元気よく研究員は言った。
 守護聖から直々に言われたのが嬉しかったのだろう。
 それがよく伝わってきた。
 自分が研究員の立場だったら、光栄に思っただろう。
 見透かすことができるほど、エルンストは高みに立っている。
 そんな自分に複雑な思いを感じた。
 これも成長と言えるのだろうか。
 ふいに変わっていない少女のことが思い浮かんだ。


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