その色は、朝焼け空の色だ。
菫の花の色でも、ライラックの花の色でも、紫水晶の色でもない。
暁の頃、空は赤とも青とも呼べない色で染め上げられる。
そんな一瞬の天空ショーの色だ。
心奪われた?
惹かれた?
興味を覚えた?
いずれでもない。
ただ、その瞳が見つめる先を見てみたいと思ったのは確かだ。
何度目かの再会。
その度、二人の立場は変わる。
二人の関係は、変わらないと言うのに。
真新しい部屋に、エルンストは立ち尽くしていた。
新しい生活が始まる。
それに相応しい部屋だった。
「エルンスト!」
扉が大きく開き、暁色の瞳の少女が飛び込んできた。
先だって見た女王補佐官らしい格好ではなく、実用的かつ都会的な服装である。
「何でしょうか?」
エルンストはためいき混じりに尋ねた。
「せっかく人が来てあげたのに、冷たすぎない?」
レイチェルは淡い色のリップクリームがのった唇をとがらせる。
勧められもしないのに、勝手に椅子に座り、形の良い脚をまるで見せびらかすように組む。
「変わりませんね」
エルンストは微かに笑った。
わがままなところも、自信にあふれているところも、その瞳の輝きも。
どんなに月日が流れても、変わっていない。
エルンストはどれだけ変わっても、少女は変化しない。
「キレイになったよ、とか言えないわけ?」
レイチェルは言った。
「私に求めても、そんな器用な言葉は出てきませんよ」
「それもそうね。
しかし、ずいぶんと機能的と言うか。
殺風景ね」
「そうですか?
このぐらいがちょうど良いと思いますよ」
「今度、花持ってきてあげる」
「この部屋にですか?」
「そう、この部屋に」
「似合いませんよ」
「それが良いの」
「あなたの考えることがわかりませんよ」
エルンストは暁色の瞳を見た。
だからこそ、見つめ続けたいと思う。
「観察不足じゃない?」
レイチェルは機嫌良く笑った。
「では、これからは毎日データを取らせてもらいますよ」
エルンストは微笑んだ。
「成果を楽しみにしてるわよ。
鋼の守護聖様♪」
「お手柔らかに。
女王補佐官殿」
すれ違いの二人の時間がようやく重なった。
これがスタートライン。
この気持ちがどう変わるのか。
本人すらわからない。
ただ、その暁色の瞳が何を見ているのか。
それだけが気になる。
「恋」とは、呼ぶには不完全な感情。