「司馬懿様〜」
魏の軍師の書卓にへばりつく。
「春って三拍子ですね!」
思いっきり確認口調で少女は言った。
「は?」
司馬懿は呆れて、を見た。
「だから、お花見に行きましょう」
はニコッと笑った。
「どこが、三拍子なのだ?」
「夏は二拍子です」
見当違いの答えを返す。
「そんなことは聞いておらぬっ!」
「えー、お花見キライですか?
せっかく、絶好のロケーションを見つけたのにぃ」
「誰がそんなことを言った!?」
「じゃあ、一緒に言ってくれるんですね。
司馬懿様、やさしいですね」
「人の話を聞け!」
「えへへ。嬉しいなぁ」
護衛武将・。
初めて覚えたスキルは「他人の話を聞かない」
しかも、上司を無視。
「黙れっ!」
司馬懿は黒羽扇を振るった。
紫色のビームが放たれる。
は子ウサギのようにぴょんと跳ねると、それを避けた。
「避けるな!」
ビームが追加される。
辺りは、妙に香ばしい匂いが立ち込める。
「ムリですよ〜」
「たまには他人の言うことを聞いたら、どうだ!?」
さらに、ビームが放たれる。
「いつも、聞いてるじゃないですかぁ」
は唇をとがらせる。
「お前は誰に向かって口を利いているんだ!?」
「もちろん、司馬懿様です♪」
「上官にたてつくとは、良い度胸だな!」
「だからこそ、魏軍に入れたんです。
感謝しなければなりませんね」
紫色の光線を器用に避けながら、は笑う。
「……言葉の裏を、……よ、読む能力を……身につけろ」
司馬懿は息切れを起こして、書卓に手をつく。
さすがにビームの連発は体に悪いようだった。
肩でゼイゼイと息をしている。
まるで、肺炎か肺結核にでもかかったようだった。
残念ながら、呉の軍師と違って佳人ではないので、全く薄命ではないのだが。
「司馬懿様、大丈夫ですか?」
ちょっぴり心配になって、は司馬懿の顔を覗き込む。
「大丈夫だ」
全然大丈夫そうに見えない男は、言い切った。
「あ、そうなんですか?
じゃあ、お花見に行きましょう」
は笑った。
新米護衛武将は、良くも悪くも、魏軍に染まり始めていた。
蒼い空の下。
薄紅色の花びらが風に舞っていた。
そよと吹く風はあたたかく、のどかな一日を演出していた。
「ここか?」
人相の悪い顔を引きつらせて、司馬懿は質問した。
「はい。
晴れてよかったですね。
絶好のお花見日和です」
はテケテケと木の下に向かう。
「司馬懿様、早く、早く〜」
少女は無邪気に手招きする。
司馬懿はげんなりとした表情をしながらも、の傍まで歩いていった。
「誰もいないし、綺麗なお花でしょう」
何も知らないは、にこにこと笑う。
「そうだな……」
「スゴイでしょう?」
褒めてもらうのを期待している幼子のような瞳が司馬懿を見上げる。
司馬懿は観念して、少女の頭をなでた。
「えへへっ♪」
幸せそうに少女は笑った。
の見つけたお花見の場所は、曹丕様の書斎から丸見えだったりした。