棘花の佳人

 初めて見た時、棘花のような佳人だと思った。
 夏に咲く艶やかな花のような、茨のような佳人だと思った。
 美しく、ふれたら怪我をするような棘花のような佳人だと思った。
 自分の隣にふさわしい、苛烈な華だと思った。
 けれども、共に過ごす時間が長くなっていくにつれて、誤解をしていることに気がついた。
 飴色の瞳は、甘く、優しく曹丕を見つめた。
 誰よりも曹丕のことを理解してくれた。
 涙を飲む時も、こぶしを握りしめて解けない時も。
 何も言わずに寄り添ってくれた。
 いつしか描いたあたたかな光景を与えてくれた。
 独りぼっちだった曹丕に、家族というものを与えてくれた。
 小さくて、あたたかくて、素直な子を与えてくれた。
 艶やかに咲き誇る花が永遠ではない。
 それを教えてくれた。
 眠るように、流れ星の一つになった。
 もう曹丕は泣くことができる場所がなくなった。
 そう思っていた。
 それは思いこみだった。
 妻と同じ色の瞳の子が、曹丕の手を取った。
 こんなにもあたたかいものを残してくれたのだ。
 曹丕は独りではない。
 二度と独りぼっちにならないように、残してくれた。
 そのことに感謝しなければならない。
 時がどれだけ行き過ぎても、残してくれたものがある。
 季節が巡る度に咲く棘花を曹丕は見つめる。
 棘だらけの花は艶やかに咲く。
 遠く離れた佳人のように。
 いつまでも忘れない。
 花が咲く誇る度に思い出すだろう。
 流星のように流れ去っていった艶やかな佳人を。

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