朽葉

 銀色の文から、散ったものがあった。
 はらりひらりと舞い、藤姫の膝に落ちた。
 稚い少女は小さな手を伸ばす。
 恋をした乙女のように、染まった葉だった。
 風流な公達らしい贈り物だった。
 朽ちた香りは、友雅の纏う香を思い出させた。
 どこかつかみどころがなく、どこか寂しい。
 華々しいところも、ぴったりだ。
 蕾のように深く染められた藤姫の袴には、明るすぎる色の葉だった。
 この葉のような袴をはくのは、まだ先だろう。
 秋の便りに、稚い少女は微笑んだ。
 文台の片隅に置くと、銀色の文に目をやる。
 恋文のような体裁をしているのに、書かれている内容は事務的だ。
 宮中に登る武官だから見聞きができる鬼たちの情報だった。
 京は龍神の神子が浄化されたが、鬼たちを駆逐したわけではない。
 元に戻っただけだ。
 首謀者を捕まえることができなかったのは、痛手だった。
 一時の平穏がもたらされただけだった。
 鬼たちは一定的な周期で活発に行動に出る。
 京を穢し、魑魅魍魎を呼び出す。
 そして、人々の生活を脅かす。
 こまごまと詳細が書かれた銀色の文に、ためいきをつく。
 よくもまあ、これほど子細を調べることができたというものだ。
 さすが帝の覚えめでたき、左近衛府少将だ。
 藤姫は銀色の文をたたむと、料紙を広げ、筆を取る。
 お礼と今後の鬼たちの動向を見張ってほしいという嘆願を書く。
 文のやり取りをしていると、まるで恋人同士のようだったが、まるきり違う。
 星の一族と八葉という関係だった。
 龍神の神子が救ってくれた京を守るために存在している。
 文机の片隅にある朽葉を見て、なんだか不思議な気分になった。
 この葉のように染まることはあるのだろうか?
 星の一族という血脈を保たなけなければならない。
 年頃になったら、霊力が強い殿方を紹介されるのだろうか。
 そうしたら、もう上背の高い公達と文のやりとりはできなくなるだろう。
 そう思ったら、胸の奥がチクリと痛んだ。
 藤姫は立ちあがって、文箱に宝物のように朽葉をしまいこんだ。
 今日という日が懐かしくなる時が来るのだろうか。
 まだ稚い少女にはわからない未来だった。

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