いい夫婦の日 2019年版

青空を仰ぎ、幸せとはどこにあるのだろうかと少年は漠然と思っていた。
月日が流れ、身の丈も伸び、一人前の男性になった。
失ったものは少なくなかったが、手に入れたものはそれ以上の物だった。
幸せ探しをする少年はもういない。
男性に麗しい佳人が寄り添う。
陽だまりの中で笑う子供の声。
幸せだ。

棘花の誓い

「死ね、と言ったら死ぬのか?」
 青年は当たり前のように問うた。
 魂すら抜け落ちてしまうほど美しい佳人は妖艶に笑った。
「我が君、と定めた方の命ならば」
 麗しい声が白刃のように言った。
 すぐさま斬れるような口調だった。
 その様子に曹丕は気に入った。
「ならば、隣で咲き誇ればいい。
 そなたほど美しい棘花はないだろう」
 青年は口の端だけに笑みを乗せる。
「もったいないお言葉。
 この生命、我が君のためだけに捧げると誓いましょう」
 甄姫は言った。
「そなたのような存在は得難い。
 生命の限り、仕えてもらおう」
 曹丕は命令のように言う。
 笑顔のまま佳人は、優雅に頭を下げた。

短文に戻る