05年クリスマスフリー小説です
 いつもとは傾向が違うのですが、こんなのもアリかと思うのでした
 コメディとか、カタカナとか、苦手な方は、引き返してください
 キャラがかなり壊れていますし、オリキャラ(曹叡)も出てくるので、イメージを崩されたくない人も、先に進まないほうが身のためです

クリスマス


 冬が猛ダッシュで近寄ってくる頃のこと。
 できたら北風と仲良くしたくない人間たちは、当然部屋の中で集まる。
 便利な物などない時代なので、火鉢の近くに。
 冬至も越して、年末の用事は大掃除ぐらいだろうと思っている。
 たった一人の例外を除いて。


 魏の若き公子は、頬を上気させて自室に飛び込んだ。
 仕事を放ったらかしで出て行ったことなど、すっかり忘れている。
 だから、紫づくめの軍師が何に怒っているのか。
 いや、怒っていることなど気づかず言うのだった。

「仲達よ。
 世の中には、サンタさんという人がいるのだな!!」

 小さな子どもが、世界の真理にふれたときのような、驚きと喜びで満ち満ちた声が言った。
 元・家庭教師は大げさにためいきをついた。
 そりゃあ、もう聞こえよがしに。
 鈍感な虎痴ですら、気がつきそうな勢いのためいきに曹丕は気づかない。
 
 あえて、無視している可能性もなくはない。
 すこぶる頭がいい人間だが、性格の方は今ひとつ。
 他人の話は聞かない、という最悪……もとい、王者らしい風格の持ち主だった。
 近い将来、曹魏は比類なき王者を戴くだろう。
 そんな不安……ではなく、期待に満ちた青年だった。

「良い子には、サンタさんがやってきて、素敵な贈り物をしてくれるらしいぞ」

「あなたは、いくつになりましたか?」
 司馬懿は子どもと呼ぶには、無理のある青年を見上げる。
「私は良い子だ」
 胸を張って、曹丕は答えた。
 黒羽扇がビートを刻んでいるんじゃないかって、思えるぐらい震える。
「確かに西国には、そんな伝承もあります。
 が、しかし、サンタクロースは実在の人物ではありません」
「仲達。
 サンタクロースではなく、サンタさんだ」
「最後まで、他人の話は聞いてください!!
 いいですか?
 多くの家庭は、父親がサンタクロースに扮して、子どもたちに物を与えるのです」
「なに……!!
 そうか、父か。
 父が子に贈るのだな……」


 


「私の元には、サンタさんはやってこないようだ。
 私が悪い子だからな」
 何かを悟ったように、曹丕はつぶやいた。

「ええですから、仕事をなさってください」
「我が君、素敵な話ですわね!!」
 絶世の美女が、曹丕の手を取る。
「甄」
 嬉しそうに青年は微笑んだ。
 話の腰を折られた司馬懿は、さらに不機嫌になる。

「我が君は、子どもの父ではございませんか。
 叡と東郷のサンタさんに、なってくださいませ」
 甄姫は言った。
「そうだったな。
 私は父であった。
 ありがとう、甄」
「いいえ、感謝には及びませんわ。
 甄は、我が君のお役に立てることが幸いですの」
「…………甄」
 感極まったように、甄姫の白い手を曹丕は握り返す。
「我が君、サンタさんになってくれますわね」
「もちろんだ。
 甄のため、我が子のため、完璧なサンタさんになろう!」
 濡れ濡れと輝く白刃よりも真剣に、曹丕は言い切った。
「さすがは、我が君ですわ。
 完璧を目指すなんて、普通の人間には出来ませんわ」
 うっとりと甄姫は言った。
「私だからな」
 無駄に自信満々な夫。
「まあ」
 それに嬉しそうに目を細める妻。
 実に似合いの夫婦であった。

「それで、仲達よ。
 どうすれば、完璧なサンタさんになれるか、教えろ」
 尊大に曹丕は言った。
「いいから、仕事をしてください!!!!」


 12月25日になったばかりの時刻。
 呉軍と思われる不審人物が城を歩いていたらしい。
 目撃情報によると、不審人物は、赤と白を基調にした衣に、白い大きな袋を抱えていたそうだ。
 宮城の奥まで忍び込んだ人物を見逃した門番たちは、何故かお咎めなしで、多くの兵士は首をひねることとなった。
 その日の朝、曹丕の子らは不思議な面持ちで、枕元にあった物を眺めることになる。
 曹叡には、本が2冊。「子どもでもわかる孫子兵法」「必勝・彼女の作り方」
 東郷には、綺麗な鏡と真新しいおはじきのコマ。
 不審人物の正体は、今もって謎である。

クリスマス その弐


 私の名は、叡。
 曹魏の主、曹操を祖父として持つ。
 
 最近、父上の機嫌が良いようだ。
 傍目から見ても、気持ち悪いぐらいに上機嫌だ。
 眉間のしわが、あまり深くないように思える。
 どうしてだろう。
 あまりに不思議だったから、父上と仲の良い仲達に尋ねてみた。
 私は、まだ年若いが「適材適所」を知っている。
 あの仲達ならば、母上と違って、きちんと答えてくれるだろう。
 私はそう期待した。


「仲達」
 私が呼ぶと、仲達は振り返る。
 今日も顔色が悪い。
 低血圧であれば、この冬の寒い時期、朝起きるのも大変だろう。
 未来の皇帝として、深い同情心を持つ私は言った。
「好き嫌いを言わずに、何でも食べたほうがいいぞ」
 言った途端、ためいきの音を聞く。
「……何をお知りになりたいのですか?」
「話が早いな」
「当然です」
 と、仲達は言った。
 祖父上に捕縛されて、すぐさま左遷されたことはある。
 私は納得した。

「最近、父上の機嫌が良いようだ。
 何か知っているか?」
「存じません」
「間髪入れずに答えると、真実味もなくなるものだな」
 私は感心した。
 やはり、仲達は何かを知っているようだった。
「私には話せないことか?」
「さあ、何のことだか……。
 私めにはわかりませぬ」
 薄い唇が笑みを刻む。
「父上に口止めされたか。
 仲達は、忠義者だな」
 私は無邪気を装って言う。
 細い眉がピクリと持ち上がったのが見えた。

「試すようなことをして悪かった。
 口止めされているならば、仕方がない。
 忘れてくれ。
 本当にすまなかった。
 私も仲達のような配下が欲しいものだな」
「くだらなすぎて、言うのも馬鹿馬鹿しいことです。
 すぐにもわかりましょう」
 仲達は言い訳のように、呟いた。
 仲達がそう言うのなら、そうなのだろう。
 すぐにわかるなら、今知る必要性はない。
「礼を言う」
「私は何も言ってません」
「そうだったな」
 私は、笑った。
 仲達は、変なところで矜持が高い。


 それから、数日後。
 朝起きると、枕元に本が置いてあった。
 眠い目をこすりながら、本の上に置いてあった小さな紙を見る。
「父上、これでバレていないおつもりなのだろうか?」
 見覚えのある文字が並んでいた。
 そして、私はためいきをついた。
 手元にある2冊の本に。
 
 私は父上の上機嫌だった理由と、奥深さを知るのであった。 


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