告白

「ねぇ、譲くん」
 望美は現状に不満があって口を開いた。
「譲くんは私のこと本当に好きなの?」
 ちょっと語調がきつかったかもしれない。
 望美は後悔した。
 ノートを見ていた視線が上がる。
 眼鏡の奥の瞳は怒っていなかった。
 呆れてもいなかった。
 ただ少し寂しそうな色をしていた。
「好きですよ」
 譲ははっきりと言った。
 それが珍しいことだということは幼馴染である望美にはよくわかっていた。
「誰にも譲れないぐらい好きです。
 もう遠慮はしません。
 兄さんにも渡しません」
 シャーペンを置いて、譲は断言した。
「どうして将臣くんの名前が出てくるの?」
 望美は不思議に思い尋ねた。
 時空の彼方に離れた、もう一人の幼馴染だ。
 今頃、南の海で平家の亡霊たちとバカンスしているだろう。
「先輩は鈍いですね」
 譲はためいきをついた。
「いい加減、先輩呼びもやめてほしいんだけど」
 望美は言った。
「兄さんも先輩のことが好きだったんですよ。
 ずっと」
 譲は拳を握った。
「将臣くんの好きはライクだったよ。
 譲くんは違うでしょう?」
 そうだったらいいな、と願いながら望美は言った。
「先輩はずるいなぁ」
 譲は微苦笑した。
「どこがずるいの?」
「自分の気持ちを言わないで他人には言わせる」
 そんな我が儘なところも魅力的なんですけどね、と付け足すように譲は言った。
「……運命を変えるぐらいには、譲くんのことが好きだよ」
 何度も時空を跳んだ。
 たった独りで、何度でも運命を選択した。
 重圧に耐えきられなさそうになりながら望美は、時空の中をさまよった。
 譲が命を落とさないただ一つの運命を見つけられた時は、とてもうれしかった。
 一つ年下の少年が抱えこんだ秘密の一部も知っている。
 だから、ずるいと言われればずるいのかもしれない。
「私のこと信じられない?」
 自然と涙があふれだした。
「あれ?」
 望美は途惑った。
 頬を伝った滴は参考書の上に、ノートの上に、ぽたぽたと零れた。
「先輩?
 俺は兄さんよりも俺を選んでくれたことが信じられなくて。
 ずっと一緒にいた時間は兄さんの方が長いから。
 コンプレックスなんです。
 いまだに、先輩が俺の傍にいてくれることが夢みたいで」
 譲はあわてて言葉を紡ぐ。
 その焦った言葉の数々が望美にとって欲しかったものだ。
 望美にとって譲は、運命という大河を捻じ曲げても欲しかった存在だった。
「私が鈍感ってあってるよ。
 気づかなかったんだもん」
 失われて初めて気づいた恋心だった。
 手遅れになってから知った気持ちだった。
「私は譲くんのことが好きだよ」
 嗚咽混じりに望美は言った。
 みっともない顔をしているんだろうな。
 そんなことを思いながら、少女は笑った。
 眼鏡の奥の瞳が見開かれる。
 困ったような、愛しいような光を宿す。
 それだけでわかりあえるような時間を過ごしてきた。
 二人は幼馴染だ。
 もう、言葉はいらない。
 望美は手の甲で涙をぬぐった。
 一瞬の感情が流させた涙は、すんなりとおさまった。
「私も譲くんが好きで、譲くんも……わ、私のことが」
 望美はしどろもどろになる。
「好きですよ」
 後半の言葉を譲が引き取った。
 自然に言われて、ほんの少し恥ずかしかった。
「なら、どうしてこうやって勉強しているのかなって?」
 望美は不満を口にした。
「それは先輩が来年、受験生だからです。
 一年近く京にいたんですから。
 それにテストの成績、良くなかったと聞きました」
 譲は厳しく言った。
「私たち両想いなんでしょう?
 つまり、こ、こ」
「先輩、鶏になったんですか?」
 少年はわかっていて笑った。
「違う!」
 望美は恥ずかしさに顔が熱くなるのを感じる。
「……恋人同士なんでしょ?」
 声が小さくなる。
 度胸はどこかへ行ってしまったようだ。
「違いますね」
 譲は断言した。
 ビックリして望美はまじまじと幼馴染を見た。
「肝心なことを言っていません」
 少年は微笑んだ。
 譲は内緒話をするように近寄ってきて、望美の耳元に
「あなたが好きです。
 付き合ってください」
 甘くささやいた。
 心臓の音が聞こえそうなほど近い場所での告白に
「喜んで」
 望美は答えた。
 まなじりに残っていた水滴が零れた。


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