騎士

 土の曜日の午後。
 執務もあらかた片付け終わり、明日への希望が高まる時間。
 新米女王は決済の終わった書類の山を見て、満足そうに微笑む。

 トントン

 控えめなノックの音。
 それから、どこかぼんやりとした印象の青年がドアを開けた。
「あー、こんにちは」
 地の守護聖ルヴァは歯切れ悪そうに挨拶した。
 困ったような表情を浮かべ、アンジェリークを見つめる。
「どうしたの、ルヴァ」
 金の髪の女王は微笑んだ。
「お仕事中でしたかー。
 お邪魔してしまったようですね」
 そそくさと帰ろうとするルヴァを
「ちょうど、終わったところなの」
とアンジェリークは引き止める。

「あー、そうなんですか。
 それは良かった。
 実は、ちょっとした贈り物があって、それで……その。
 よろしければ」
 ルヴァは背に隠していたものを、アンジェリークに差し出した。
 深みのある赤いバラ。
 目の前の青年とは不釣合いな代物だった。
 本人も自覚があるようで、困惑したような表情を浮かべていた。
「ありがとう」
 アンジェリークはバラを受け取った。
 摘んだばかりのそれは、瑞々しく甘い芳香を持っていた。
 一体、どんな顔で彼がこれを摘んできたのだろう。
 想像すると、頬が緩む。

「今日は、サン・ジョルディの日なんです。
 男性から赤いバラを、女性からは本を贈りあう習慣があって。
 えー、それに習ったんです。
 陛下は、そのー。
 私にとって、大切なダァム(栄誉ある王族の女性騎士)ですから。
 敬愛と忠誠に……って、言い訳ですねー。
 つまり、そのー」
 ブルーグレーの瞳がアンジェリークをひたむきに見つめる。
「騎士サン・ジョルディになりたかったんです。
 もしも、あなたが攫われたら、必ず助けに行きます」
 とうとうルヴァは言い切った。
 翡翠色の瞳は大きく見開かれる。

 守護聖だからではなくて。
 あなたの騎士になりたい、と。
 
 アンジェリークの心には聞こえた。
「ええ」
 嬉しくて、少女は心からの笑顔を浮かべた。


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